Auger観測所が100年の謎解明の糸口を発見:
最高エネルギー宇宙線は巨大ブラックホール周辺で発生していた
原文
(英語)
Malargue, アルゼンチン--- Pierre Auger計画を進めている科学者達は、今日(11月8日2PM U.S Easter Time)、
地球に降り注ぐ最高エネルギー宇宙線の発生源が活動銀河中心核と関係していると発表した。17カ国から
なる国際研究チームがアルゼンチンで建設を進めている世界最大の宇宙線検出器the Pierre Auger観測所は、
未知の粒子である最高エネルギー宇宙線の到来方向分布が全天で一様ではないことを確認した。
その方向は近傍の巨大ブラックホールを中心に持つ活動的な銀河の方向に一致していた。
この結果は11月9日付けの米国科学雑誌Scienceに発表される。
活動銀河中心核(Active Galactic Nuclei, AGN)は、莫大な物質を吸収している
巨大ブラックホールからエネルギーを得ていると考えられている。もともとこれらの天体は、高エネルギー
粒子の発生源だと考えられてきた。AGNはブラックホールを包み込んでいる銀河のガスや天体を飲み込み、
粒子とエネルギーを吐き出していのである。ほとんどの銀河がその中心にブラックホールを隠し持っているが、
その内のほんの一部だけがAGNである。最高エネルギー宇宙線のエネルギーは人類が加速器を使って作り
出せるエネルギーの1億倍に相当する。AGNがどうやってこの莫大なエネルギーまで粒子を加速できるのか、
その仕組みはまだ分かっていない。
Jim Cronin, left, and Alan Watson
「我々は、1938年にフランスの物理学者Pierre Auger(ピエール オージェ1899-1993)が見つけた謎である 最
高エネルギー宇宙線の正体と源を解き明かす大きな一歩を踏み出した。」ノーベル物理学者でアラン・ワトソン
(英国Leeds大)と共にPierre Auger計画を提案したジム・クローニン(シカゴ大)は そう話している。「我々は今、
最高エネルギー宇宙線で見た南半球の空が一様では無いことを発見した。これは根本的な発見である。宇宙線
天文学の時代が来たのだ。これから数年間、われわれのデータにより宇宙線が何所でどうやって加速されるのか
正確に分かるだろう。」
宇宙線は光に近い速さで宇宙空間を飛び交う陽子や原子核である。エネルギーの高い宇宙線は その小さな粒子の中
に 銃弾と同程度の運動エネルギーを持っている。それらが地球大気に突入すると莫大な数の二次粒子を作り、
それが空気シャワーと呼ばれる現象を起こし40平方km以上の領域に広がりながら地表に降り注ぐ。
Auger計画のスポークスパーソンのアラン・ワトソンは「この結果は宇宙に向かって新しい窓となる
宇宙線天文学(Cosmic-Ray Astronomy)
の開幕をもたらすだろう。」と語っている。「データ量が増えるにしたがって、銀河の活動を全く
新しい方法で詳細に見ることができるようになるだろう。我々が予想していたように、
この観測所は光のかわりに宇宙線を使い新しい宇宙の姿を観測している。」

The Pierre Auger 計画のメンバー
この Pierre Auger 観測所は粒子検出器を1.5km 間隔で3,000平方kmの領域に並べて宇宙線が生じる空気シャワーを
観測している。さらに24台の特殊な望遠鏡が空気シャワーからの蛍光を記録する。粒子検出器と蛍光望遠鏡を
組み合わせることにより、高精度の観測を実現している。
今までに観測された約百万個の宇宙線のうち ごく一部の最高エネルギー宇宙線のみが十分な精度でそれらの
発生源を示している。Auger観測所では今までに4x10^19eV(40EeV)以上のエネルギーの宇宙線を81個観測して
いる。この数字は世界最大である。このエネルギーでの到来方向決定精度は数度以下であり、これらの粒子が
宇宙で発生する場所を特定するのに十分である。
この実験で観測された57EeV以上のエネルギーの宇宙線27個の到来方向分布が等方的でないことが確認された。
さらに観測されている318個のAGNと比較するとセンタウルス Aなど近傍のAGNと相関があることが発見された。

銀河座標系の天球図にAuger観測所によって観測された27個の最高エネルギー宇宙線の到来方向を3.1度の円で示
している。エネルギーは
57 x 1018 eV (57 EeV)以上。
75Mpc(~2.5億光年)以内のAGNを赤い点で示している。観測された領域を青で示していて、濃さで観測した
露出の多さを示している。白い点は最も近いAGNであるセンタウルスA。点線は超銀河面を示している。
2つの宇宙線がこのAGNの方向から観測されている。点線で超銀河面を示していて、この付近にAGNを含む銀河
が密集している。
Click on the image for a better view.
Correo Argentino, S.A., has issued a 0.75 peso stamp
to honor the Pierre Auger Observatory.
「低いエネルギーの宇宙線は、大量にあり等方的にやって来る。
そのほとんどが我々のすむ天の川銀河系内で発生している。また現在までに確認されている宇宙線の発生源は
太陽だけである。爆発している星などそれ以外の天体で発生した宇宙線は地球に到達するまでに磁場で曲げら
れてしまい到来方向が分からない。しかし最も活発な天体で発生している最高エネルギー宇宙線は、宇宙空間
を真っすぐ突き抜けて来るためその源を指し示しているはずである。これら宇宙の銃弾が宇宙空間に打ち込ま
れた過程を理解するために 十分な数を計測しなければならない。」とAuger計画マネージャーのポール・
マシュー(米国フェルミ研究所)は言っている。
60EeV以上のエネルギーの宇宙線は宇宙空間を1億光年以上伝播できない。これらの最高エネルギー宇宙線は
長い距離を進むうちに、宇宙を満たしているビッグバンの残光:宇宙背景放射(CMB)と相互作用を起こしエ
ネルギーを失う。しかし近傍のAGNで発生する宇宙線は、地球までの“短い”旅行の間にエネルギーを失う
時間がない。Auger計画の科学者たちは、57EeV以上のエネルギーの宇宙線27個が 地球から数億光年以内に
ある近傍のAGNの方向から来ていることを発見した。
Cerro Tololo 4m 望遠鏡で観測されたセンタウルス A (NGC 5128) の写真。この銀河の中心には 我々の最も近く
にある(1.1千万光年)活動銀河中心核(AGN)がある。Auger観測所はこの天体から2度以内の方向から来た
最高エネルギー宇宙線を2つ観測した。(National Optical Astronomy Observatories提供)
科学者達は、ほとんどの銀河の中心に太陽の質量の百万倍から数十億倍のブラックホールがあると信じている。
我々の天の川銀河中心にあるブラックホールは、太陽質量の3百万倍もあるがAGNではない。AGNは、そこに
落ちてくる物質を飲み込み それに伴い莫大な放射をおこなっている。Augerの結果はAGNが宇宙で最も大き
なエネルギーの粒子をも作り出していることを示している。
宇宙線天文学には2つの困難な面がある。まずエネルギーの低い宇宙線は宇宙空間を伝搬する間に銀河系内外
の磁場により軌道が曲げられ到来方向が分らなくなる。逆に最もエネルギーの高い宇宙線は、磁場の影響を受
けずに 発生源からまっすぐ飛んでくるが、残念ながら 1平方kmあたり100年に一個しか来ない。このため
巨大な検出器が必要になる。
その巨大な検出面積によりAuger観測所は年間約30個の最高エネルギー宇宙線を検出できる。Auger計画では、
最高エネルギー宇宙線を全天で観測しデータを増やすために、米国コロラド州に2つ目のより大きな観測所
を計画している。

the Pierre Auger観測所はハイブリッド検出器である。丘の上にある建物は4つある大気蛍光望遠鏡のうちの
一つと通信塔。手前に移っているのは1,600個ある地上検出器のうちの一つ。
「この結果は宇宙線天文学に確実な発展をもたらす。」とAuger計画の共同スポークスパーソンのジョージ・
マティア(ローマ大)は言う。「現在までアルゼンチンの南観測所に1600個の検出器のうち1500個を設置
した。北半球の空には南半球より近傍のAGNが多くあるため、北観測所は より多くの銀河とブラック
ホールを見ることができ、検出感度が高くなる。」
すべての大気蛍光望遠鏡サイトから観測された宇宙線データ。それぞれの望遠鏡サイトから
数億個の粒子から成る 拡大し縮小していく空気シャワーが観測されている。
このPierre Auger観測所は17カ国から参加している370人の科学者と技術者のチームにより建設されている。
「この観測所の建設費や約60億円だが、このうち25%以上の建設費を負担している国は無い。
Augerコラボレーションは本当の国際協力(インターナショナル パートナーシップ)を実現している。」
とAugerコラボレーション会議の議長Danilo Zavrtanik(Nova Gorica大,スロベニア)は説明している。この計画に
貢献している予算当局はこのリンク ,
研究拠点はこのリンク
で見ることができる。
Auger南半球観測所の起工式はアルゼンチンのメンドーサ州で1999年3月17日に行われた。建設とテスト観測
を経て2004年の1月からデータ収集が始まった。
「アルゼンチンはこのユニークな科学的試みにホストとして参加することを喜んでいます。」南観測所
スポークスパーソンの Alberto Etchengoyen (Tandar研究所)は言う。「今までの苦労と興奮を思い返し、
今日の発表をもたらした一つ一つの努力を行った全てのメンバーを敬服し感謝しています。」
この計画は、高エネルギー宇宙線が地球大気と衝突して発生する空気シャワー現象を 1938年に始めて
発見した フランスの科学者Pierre Vector Auger (1899-1993)にちなんで名づけられた。
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